死産や人工死産(人工中絶)をした時、経済的な心配をされる方もいらっしゃると思います。
しかし、死産や死産・人工妊娠中絶でも、一定の要件をクリアすると、通常の出産と同じように給付金がもらえますので、あまり経済的な心配をする必要はありません。
それは、死産や中絶など悲しいお産だとしても、赤ちゃんを「出産」ことに他ならないからです。
ここでは、死産・人工死産(人工中絶)・後期流産の場合、もらえる給付金とその要件についてお伝えしたいと思います。
健康保険の出産とは
公的医療保険である健康保険(以下、健康保険)では、 妊娠4ヵ月(85日)以後の死産や流産、人工死産や早産も含め、出産といいます。
厚生労働省や日本産婦人科学会で「死産」や「流産」など名前の定義はありますが、その名称に関係なく、妊娠4ヶ月以降であれば、出産と定義しています。
基本的なこととして、健康保険では、出産(分娩)の場合は、病気やけがをしているわけではないので、健康保険が使えません。
同様に、早産や死産などの出産に関しても、同じく健康保険が利用できませんので実際にかかった費用をそのまま支払う必要があります。
例外として、出産の方法が、帝王切開などによる、出産や人工中絶(分娩)の場合は、健康保険が利用できることになっています。
経済的理由などで、人工的に中絶(母体保護法に基づく中絶)することを指します。
出産一時金は死産や経済的理由での中絶も対象
出産の場合など健康保険は利用できませんが、代わりに出産一時金を受け取ることができます。
出産一時金
保険に加入している本人(被保険者)が、妊娠4ヵ月(85日)以上の方が出産したときは、一児につき48.8万円支給されます。
(産科医療補償制度の対象となる場合など、出産の場合は50万円)
*産科医療補償制度とは
医療機関等が加入する制度。分娩時に重度の脳性まひとなった場合、経済的負担を補償する制度のため22周以降は病院に支払う。
出産が要件のため、死産であっても当然、出産一時金は出ますし、人工妊娠中絶も、経済的な中絶でなければ、基本出産一時金は支給されます。
出産一時金の3つの受け取り方法
①直接支払制度
健康保険が病院(医療機関)に対し、直接出産費用を支払う仕組みです。
病院によりますが、事前に分娩予約の時に「直接支払制度」の申請をします。
その時に直接支払い制度を申請していれば、死産であったとしても直接払いが利用できます。(手続きは簡単です)
出産費用が出産育児一時金(50万円)より高い場合は、差額だけを病院に支払うので経済的な負担が軽減します。また出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合、差額は本人に支払われます。
②受取代理制度
主に直接支払制度を実施していない医療機関(主に小規模の医療機関)が行う仕組みです。
直接支払制度と同様に、健康保険から病院に直接出産費用を支払ってもらえるサービスですが、事前に、被保険者が健康保険へ申請を行わなければなりません。
③あとから申請
一度病院にご自身で出産費用払ったのち、申請することによって出産一時金を受け取りができます。
この「あとから申請する」ことは、他の手段に比べ手間がかかるので、直接支払制度ができる場合などは、選択する必要はないかと思います。
ただ週数にもよりますが、死産や人工死産の場合は、このパターンが多いといえます。
なお申請方法は、「健康保険出産育児一時金支給申請書」に、領収書等を添付して加入している健康保険へ提出してください。
また、申請書には「出産の証明欄」がありますので、医師もしくは助産師等に書類を記入してもらう必要があります。 ※病院側は手続きに慣れているのでなんら心配ありません。
家族出産一時金
家族の扶養に入っている人(被扶養者である配偶者や家族)が出産した時は、本人と同様に出産一時金をもらえる制度です。
ご自身がサラリーマンの妻で、夫の健康保険にはいっている(被扶養者)であれば、夫の健康保険から出産一時金が出ます。
退職した場合
最近まで働いていたけど、出産を機に退職した人やその他の事情で退職した方などを対象とした方も出産一時金がもらえることもあります。
具体的な要件として、下の二つの要件を両方満たしている場合は、出産一時金を受け取れます。
・退職日までに、1年以上勤務(健康保険に加入)。
・退職日から6ヵ月以内の出産。
この場合は、立替の必要のない直接支払制度は、手続きに時間がかかりますので、現実的には利用する方が少ないです。
申請には、「健康保険被保険者資格喪失等証明書」を医療機関等へ提示いただく必要があります。
わざわざこの制度を利用しなくても、現在はいっている健康保険(国保や夫の健康保険)を利用することも可能です。
なお、重複して受け取ることはできません。
出産手当金は、死産も対象
会社員の人で、産前産後休暇をとって会社から給料の支払いがない場合は、死産なども、出産手当金も受け取ることができます。
支給期間は原則として出産予定日以前(産前)42日から出産日の翌日以降(産後)56日までの範囲で、会社を休み、給料の支払いがなかった期間です。
受け取れる額は、おおよそ(休暇を取る前の)給料の2/3の金額です。
上記に加え、「産前産後休業保険料免除制度」があり、産休中の社会保険料が免除になりますので、通常のお給料の約8割が受け取りできます。
なお産前産後休暇は、労働基準法で就業禁止を定められています。
今後のためにも、ここは無理せずゆっくり体を休めましょう。
請求先 -健康保険の種類-
加入している健康保険によって、請求先が異なります。
給付金の請求は、ご自身の加入している公的医療保険となりますので、必ず確認する必要があります。
公的医療保険の種類
社会保険(社保)
① 協会けんぽ(全国健康保険協会)
② けんぽ組合(健康保険組合)
③ 共済組合
国民健康保険(国保)
④ 国民健康保険
このほか、後期高齢者医療制度や船員保険などありますが、ここでは省略します。
社会保険(社保)
俗に社保(社会保険)と呼ばれているものは、この3つを指します
①協会けんぽ(全国健康保険協会)
会社員を対象とした保険制度です。主に加入は、中小企業の社員や家族です。
協会けんぽは各都道府県に支部があり、会社がある都道府県の支部に加入しています。
②けんぽ組合(健康保険組合)
会社員でも、主に大企業(大企業のグループ会社)の社員や家族が、加入しています。
協会けんぽより、保険料が安く、手厚い補償が受けることができます。また、けんぽ組合によっては、出産一時金など上乗せがある場合があります。
③共済組合
公務員や私立学校の先生が加入しています。
比較的、保険料が安いというのが特徴です。
国民保険
④国民健康保険(国保)
一般的に国保と呼ばれている保険です。
主に個人事業主や上記に属さない場合に加入する保険です。
以上、保険の種類を説明しましたが、一番手っ取り早く確認する方法は、病院などで提出する健康保険証を見ると加入している保険や連絡先などすぐにわかります。
帝王切開など使える高額療養費について
上記の一時金とは少し異なりますが、経済的負担を軽減してくれる高額療養費についても触れておきます。
高額療養費制度とは、一か月の間において、医療費の自己負担が高額になってしまった場合、一定の金額を超えた場合、あとから戻ってくる仕組みです。
なお収入によって自己負担額が変わります。
ご自身(妻側)がフルタイムで働いているならご自身の月収、夫の扶養内で働いているや専業主婦であれば夫の月収で自己負担額が決まります。
【自己負担限度額】
標準報酬月額は給与明細をみればわかりますが、残業代なども含めた月収として考えてください。
詳しくはこちらで確認
分娩の際、帝王切開など、手術をした場合の医療費は高額です。実際に帝王切開をすると医療費は50万円以上かかると思ってよいでしょう。
そのような時に、高額療養費が利用できます。
医療費を軽減できるとともに、ある程度の支払うべき医療費の上限がわかるので、非常にありがたい制度です。
被保険者の年収が500万円
帝王切開で医療費50万円だった場合
80,100円+(500,000円-267,000円)×1%=82,430円(自己負担金額)
高額療養費は、「直接払い」といって立替なく、直接病院に支払われる仕組みもあります。
しかしこれも事前の申請が必要になるため、今回は使えない人がほとんどだと思いますので、後日健康保険に申請をしてください。(総務がしっかりしている会社などは、申請書を用意してくれたり、フォローしてくれます)
さいごに
このような制度は、勝手に受け取れるわけではなく、ご自身で申請しないともらえません。
特に、死産や人工死産の場合は、手続きの方法を理解していないという会社も多くあります。
また、死産・流産・中絶の場合は、「お金の問題」ではないと感じ、一時金や手当金などの「給付金は必要ない」と思われる方もいると思います。
しかし、今後の生活の足しになりますし、出産や手術等すると少なくない費用が掛かります。
いまは、気持ち的に必要ないと思われる方も、いることでしょう。
その場合は、今すぐ申請しなくても2年の猶予期間があります。
気持ちが少し和らいでからでも遅くありませんので、忘れず申請することをお勧めします。