出生前診断とは、おなかの赤ちゃんの状態を調べる検査です。
しかし現実は、『赤ちゃんの状態』つまり、胎児に障害などの異常があるかないかを確認し、その結果をもとに、出産を進めるか中断するかを判断するために利用されています。
驚くべきことではありませんが、 現に、出生前診断を受けて胎児に異常があれば、90%以上の夫婦が中絶を選択します。
つまり、「出生前診断を受ける」ということは、もし障害があった場合、おなかの中の赤ちゃんを諦める選択をとることが前提となっています。
そのため、出生前診断は「命の選別」とも揶揄されますが、当事者夫婦にとって、出生前診断は、妊娠をすすめる上で、非常に重要な情報であると考えます。
そこで、本日は、出生前検査について解説します。
出生前診断とは
出生前検査とは、いまや胎児に障害があるかどうかの検査として利用されますが、本来は、赤ちゃんの状態を事前に知るということにより、最適な分娩方法や赤ちゃんの療育環境を事前に考えることを目的として行われます。
なお、出生前診断は、原則、妊婦検診の項目にないため、夫婦が望んだ場合のみ受けることのできる検査です。
検査の種類
大きく分類すると、非確定的検査と確定的検査の2種類になります。
確定検査は、染色体疾患(異常)が、あるかないかを決定させるものですが、非確定検査は、染色体疾患が、ある確率とない確率を診断する、いわば確定検査の事前検査といった位置づけです。
非確定的検査
非確定検査はいくつかありますが、代表的なものが3つあります。
非確定検査の特長は、流産や破水、出血等のリスクが伴わないため、母体にも赤ちゃんにも安全な検査といえます。
1 胎児超音波検査
超音波検査とは、エコーを腹部にあてることで、赤ちゃんに疾患や異常がないかを確認する検査です。(このような超音波検査の結果(所見)をソフトマーカーといいます)
超音波検査は、通常の妊婦検診でも実施しますが、これもれっきとした出生前検査になります。
具体的には、赤ちゃんの首の厚さ・むくみ(NT)の検査や、発育状況から障害の有無、形態異常を判断することができます。
この超音波検査は、医師(病院)によりますが、通常の妊婦検診でも、簡易的な検査をしてくれることがあります。
超音波検査は、医師の目視であるため、判定確率は、決して高いものではありません。しかし、これは医師の技量というところよりも、検査が妊娠初期のため、正確に判定できないことが多いというのが実情です。あくまで検査結果は、参考としてとどめましょう。
医師より「異常が見受けられる」といわれた場合は、より詳しい検査を受診した方がよいでしょう。
検査時期:妊娠12週前後
料金の目安:1万~3万円
2 母体血清マーカー検査(クアトロテスト)
母体の採血することにより、検査する方法になります。特定の血清マーカーを測定する検査です。
クワトロテスト(血清マーカー)は、AFP、uE3、hCG、Inhibin Aの4種類の血液成分を測定する血液検査です。 さらに検査の判断には、血液検査に加えて、妊婦に関わる因子(妊娠週数・体重・家族歴など)も判定材料に用いられます。
少し前までは、血清マーカー検査といえば、 トリプルマーカーテストでしたが、現在はクワトロテストをするのが一般的です。なお、トリプルマーカ―テストはInhibin Aの測定がない3つの項目検査のことを指します。
【検査からわかること】 この3つの確率を判定します。
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)
- 21トリソミー(ダウン症)
- 開放性神経管奇形(二分脊椎や無脳症)
参考
18トリソミー
発達障害や重度の知的障害など。新生児で亡くなることが多い。
1歳までの生存確率は約10%
21トリソミー
俗にいうダウン症。
特徴としては知的能力や運動能力がゆっくりです。
平均寿命50~60歳。 遺伝に関係なく起こります。
検査精度:およそ80%確率で、異常があるかどうかを判断できます。
この検査は、染色体異常である確率をパーセンテージで出す検査になります。 ※クアトロテストもトリプルマーカーテストも精度の差はほとんどありません
検査時期 15~18週に検査をします。
料金の目安 20,000円~50,000円
なお1超音波検査と2血液検査(血清マーカ)を組み合わせたものをコンバインド検査と呼びます。
3 NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査)
近年、出生前診断と言えば、このNIPT(通称 新型出生前診断)のことを指します。
NIPTは、母体から採血のみで検査できる上、検査結果の精度が高いという特長があります。 なお、妊娠10週以降から検査が可能です。
検査を受けるには、日本医学会の認可施設では、以下に当てはまる人しか、検査を受けることができません
- 35歳以上(分娩予定日)
- 過去に染色体異常の子を出産したことがある
- 染色体異常の子を出産する可能性が高いと判断された人
- 検査前後に、(夫婦そろっての)医師のカウンセリングを受ける
この検査で調べられることは、染色体(先天性)疾患があるかどうかです。
- 13トリソミー(パトー症候群)
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)
- 21トリソミー(ダウン症候群) の3つになります。
なお、この3つは染色体疾患(異常)の約70%を占めています。
13トミソリー
脳や心臓、呼吸器などの障害など。
死産することが多く、1歳までに生きれるのは10%未満
【検査精度】
検査の確率は、陰性が出た時は99%の的中率といわれています。
陽性の場合80%以上の精度といわれていますが、比較的新しい検査なので、この検査だけで診断は確定されません。また、母親の年齢が低いほど精度が下がる傾向にあります。
陽性が出たとしても、あくまでも非確定検査です。詳しく知りたい場合は、羊毛検査(絨毛検査)に進むのが一般的です。
費用の目安 20万円前後
【参考】 なぜ出生前診断を受けた90%以上は中絶するのか
NIPT(新出生前診断)を認可施設で受ける場合、検査前のカウンセリング時に「検査結果が陽性反応(異常)場合はどうするのか」を 事前に医師と話し合います。
もし陽性(異常あり)だった場合、「妊娠を継続する夫婦」は、カウンセリングしたのち、検査を受けることをやめるため、結果として「妊娠を継続しない夫婦」だけ、検査を受けます。
そのことにより、出生前診断を受ける人の90%以上が中絶をするという結果につながるのです。
確定検査
確定検査は、通常、上記の非確定的検査を得てからの検査となります。
なぜ、最初から羊水検査を受けないかというと、さまざまなリスクがあるからです。
確定検査は、母体のおなかから、針を刺しますので、痛みが伴います。流産リスクも伴い、流産する確率が300人に1人(0.3%)です。その他破水や出血、早産のリスクや、感染症のリスクもあります。
また、費用も高額ですし、そもそも、確定前検査を経ていないと、検査してくれないということもあります。
羊水検査
羊水に含まれる細胞を採取して検査する方法となります。具体的には、母体に針を刺すことにより、羊水を採取します。
羊水検査は、NIPTより幅広く、染色体全般において異常があるかを確認することができます。
なお、リスクとして、流産の確率が300人に1人(0.3%)です、その他破水や出血、早産のリスクもあります。
絨毛検査
絨毛とは、妊娠初期(形成時)の胎盤の一部のことを言います。
絨毛検査とは、絨毛を羊水検査同様、注射により絨毛採取する検査です。(例外として膣から採取することもあります)
絨毛検査と羊水検査は、ほぼ、同じような検査です。ざっくりな説明ですが、羊毛検査も絨毛検査検査も検査時期の違い程度の違いという解釈でよいでしょう。また、絨毛検査が対応している病院が、羊水検査に対応している病院に比べ、非常に少ないので、絨毛検査を受けたくても、受けられないということも挙げられます。
絨毛検査は、11週以降15週未満で実施するのに対し、羊毛検査は、15週以降に行われます。
料金の目安 10~20万円
検査対象者: 検査を受けれることができるのは以下の方です。
1. 夫婦のいずれかが,染色体異常の保因者である場合
日本産婦人科学会
2. 染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往を有する場合
3. 高齢妊娠の場合
4. 妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
5. 夫婦の両者が,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
6. 夫婦の一方もしくは両者が,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
7.その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合
【参考】 出生前診断はなぜ35歳以上?!
ひとつは、35歳以上は一般的に高齢出産ということが挙げられます。
女性は高齢になるにつれて、体内環境や卵巣機能の低下のため、21トリソミー(ダウン症)や染色体疾患の子どもが生まれる確率が上昇します。
生まれてくる子どもが、障がいがあるがあるかどうかを「事前に両親が知っておく」ということは、夫婦にとって有益な情報提供であると、国は考えているのでしょう。
もうひとつは、羊毛検査も絨毛検査も流産のリスクがあります。
流産の確率が、およそ0.3%に対し、35歳未満の妊婦がダウン症の子を産む確率が0.25%です。つまり、検査で異常を判定するより、流産のリスクの確率が上回るので、35歳未満は検査を推奨すべきではないされていると考えます。
出生前検査の確率について
出生前検査(NIPT)の判定確率ですが、陰性判定がでた場合の的中率は99%です。ただ、あくまでも陰性だった場合の確率です。
陽性の場合は、約80%の確率というデータがありますが、NIPTは、非確定検査ですので、確定検査を必ず受ける必要があります。
また、確定検査の羊水検査(絨毛検査)の精度は99%の確率でわかります。
ただ、出生前検査をしても、検査の限界はあります。
出生前診断で注意すべきこと
周りの意見に流されない
- 周りが受けているから
- 友人や親に勧められたから
- 血液検査だけで済むから
色々周りから言われると確かに気になるものです。
しかし、他人がどうしているかは関係ありません。夫婦でしっかりと話し合いを行い、出生前診断を受けるかどうか考えるとよいでしょう。
検査には限界がある
出生前検査で陰性だとしても、100%健常な子が生まれるわけではありません。
出生前診断は主に、染色体の異常について調べるだけですので、検査対象の染色体疾患以外の病気や、妊娠中の合併症などは判断できません。 当たり前ですが、そもそも妊娠中に「すべての項目において、子供に染色体疾患(異常)があるかどうかを100%チェックできる」こと自体ありえないことです。
よって、検査の結果が陰性の場合、必ず健常な(異常のない)子供が生まれてくる確率は高いですが、約束されたものではありません。
判定ができない場合もある
赤ちゃんのDNAがうまく採取されない、また少ない場合などは、判定が出ない場合もあります。場合によっては、結果がわからないということもごくまれにあります。
異常が見つかってもなにもできないことが多い
染色体異常が見つかったとしても、治療ができない場合がほとんどです。
しかし、検査をすることによって事前に赤ちゃんのリスクがわかりますので、出産後に赤ちゃんを救うための準備ができます。
認可外施設で出生前診断
例えば、35歳未満で出生前検査が受けたい場合は、どうしたらいいのでしょうか。
基本的には、出生前検査は高齢出産(35歳以上)しか受けることができません。
しかし現実には、認可外で検査を受ける制限なく出生前検査(NIPT)を受けることは可能です。
認可外施設は、採血した後、海外の検査会社に送り、結果を待つという方法で実施しているところがほとんどです。
そして、認可外施設は、産婦人科のみならず、美容外科などもあります。
現実に、35歳以上でも、認可外施設で検査を受ける人が多いのが実情です。それではなぜ認可外が選ばれるのでしょうか。
メリット
- 年齢制限がない
- 来院回数、夫婦でのカウンセリングを受けるなどの制約が少ない
- 検査の結果までの時間が短い(約2週間)
- 検査精度が高い(例外あり) 陰性はともに99%、陽性 約90%、認可約80%(年齢による)
- 検査可能な項目が多い(全染色体検査、性別判断、微小欠失検査など)
- ※施設によって異なる可能性も多い
デメリット
- リスク説明がほとんどない
- 陽性反応が出た時のサポートが受けづらい
正直なところ、認可外の方が楽でいいかなと思うかもしれません。
夫婦の意思が固く、陽性(異常あり)のことまで、しっかりと考えている人には認可外施設の方がお手軽なので、受けることも一つの選択肢だと思います。
「出生前診断を受けるか迷っている」や「検査結果のことは、考えていない(考えたくない)」という方は、認可施設で、検査の相談をするとよいでしょう。きっと経験を基に、医療機関のスタッフが親身になってアドレスしてくれるはずです。
さいごに
出生前診断は、当然メリットもデメリットをある検査で、いまなお議論が交わされる検査であるのが事実です。
そのことを十分理解した上で、検査をするかしないかを、周りの意見に流されず、ご本人の意向と、家族(パートナー)と相談した上で決断することが大切です。
後悔のない選択をされてください。